第42回 一般部門 入賞

所在地 :福井県福井市
 福井市南部の田園風景に囲まれた旧集落地区に計画された住宅である。幹線道路である国道8号線からほど近い距離ながら集落内部には往来の喧騒は届かない。子どもの頃から気心の知れたご近所という環境だからこそ、この開放的な住まいが可能だと語る施主。なるほど周囲に開けた住まいだからこそ庭木に配慮し、基礎もGL面に設置し室内と街路に高低差を取ることで視線が直接交わらない配慮がなされている。
 現しの登り梁で構成される大屋根のワン・フロア空間は、建物全体を地面から60cm浮かすことで南北の庭と一体となった縁側の如きリビング空間を実現させている。床そのものを浮かす手法は視覚的な効果のみ狙ったものでなく、寧ろ気候条件の厳しい北陸を十分熟知した建築家だからこそ選択し得た意外な解決法でもある。夏期は日射の影響をうけない床下の冷気をリビング中央の床換気口から吸気するため風通しもよく、今年の酷暑もエアコンに頼ることはごくまれだったと言う。また心配された冬季も屋根からの落雪が恰も防風壁の働きをするため床下からの空気の動きは感じられなかったと言う。床を浮かせる解決法が、環境調整技術と一体となった建築意匠であることを頷かせる。
 積雪深を配慮する北陸の設計では、屋根の梁成は非積雪地よりも大きく取る必要がある。加えて大開口の軽快な立面を実現するためには、現しの構造表現はややもすると表現意図とは裏腹に鈍重な印象を与えかねない。しかしこの作品では登り梁を折置きにすることで、軒の小壁の成を小さく抑え窓側の室内立面をすっきり見せるとともに、柱と梁の緊結を可能にすることで壁量の確保が厳しい開口面においても剛性の保持に貢献している。積雪に備え屋根裏にも通気層を必要とするため、軒先見付けは重厚になりがちであるが、軒先にチャンネル材を回すことでシャープな意匠にまとめている。
 厳しい気候と開放的空間の弁証法的な緊張感こそ、この建築の魅力であろう。
(熊澤 栄二)
主要用途 住宅
構  造
木造
階  数 地上1階
敷地面積 413.98 u
建築面積
153.07 u
延床面積 128.62 u
設計者 丸山晴之建築事務所
 丸山 晴之
施工者 株式会社 名津井建設 
 名津井 晋次

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