所在地 :愛知県名古屋市 |
閑静な住宅地の一角にこの家はある。当該地は建築制限の非常に厳しい第一種風致地区が指定されている。しかも街区の北東角に位置し、扇型の形状をした50坪の敷地で、北東に向かって緩やかに傾斜している。こういった敷地条件にあらがうのでなく、素直に従ってこの住まいは建てられている。すなわち、傾斜地に埋め込まれたRC造の地階とその上に建てられた木造の板張り外壁の1階より構成されている。敷地形状に合わせて、3次元カーブを描き、アールの壁を持つ。この独自のフォルムと道に開かれた前庭の植栽がこの住まいを特徴づけており、雑木林の中のあるような家こそが、住まい手の周辺に対する心づかいを表している。 ここは定年後の夫婦がゆったりと暮らす終の棲家である。よって、大きな床面積は不要であった。もともと建ぺい率30%の制限がかかっているが、住宅をコンパクトにした分だけ、さらに敷地に余裕が生まれ、樹木も植えることができ、多少の上下がありながらも敷地の周回もできる。 地階に玄関があり、その控室と寝室が、1階はLDKが配されている。このリビング・ダイニングには高さ40cm、長さはカーブしながら7m弱の連窓が取り付けられている。リビング・ダイニングの椅子に腰かけて丁度いい高さに連窓があるので、そこから見える北側の順光の景色がパノラマのように広がり、風景が屋内に溶け込んでいくようだ。連窓の高さは抑えてあるが、視界を遮るような違和感は全くなく、むしろプライバシーを保つ上では程よい大きさの連窓であると言える。 丁寧な造作である。湾曲し、高さも変化する壁と片流れで傾斜する屋根を合わせ持つ三次元変形構造体は、相当現場で苦労したはずだ。監理の適切な指示と大工職人の地道ながら確かな技が合わさって実現できたものである。 住まい手の声。「夫は毎日ワクワクしながら帰宅しているようです。ここにいると、五感が刺激されます。毎日幸せに暮らしています。春にはウグイスが啼いているのを聞きました。」 |
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(井澤 知旦) | |||||||||||||||||||||
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