第42回 一般部門 入賞

所在地 :愛知県名古屋市
 おもちゃ箱は、明治半ばから徐々に市街地化を遂げた家並みの中にある。かつては地主層の和風住宅と、より小規模な借家が混在していたが、今日は、そこに幹線道路が通り、古い家々がマンションや戸建住宅として建替えられ、或いは駐車場に変化しつつある。このような一帯の歴史を反映して、この家の敷地は四方を住宅と駐車場で取り囲まれ、僅かに南東端で4メートルの接道を確保した袋小路状の形態である。今後、周辺環境が安定したものであることは必ずしも期待できないため、この住宅は外に閉じた中庭型となった。白い壁に穿たれた開口は限られてはいるが、周辺の家並みにも住み手の温もりを伝え、穏やかな表情をもたらすものとなっている。
 家の中央には居間と中庭のテラスが一段高く設けられ、これを回廊状の部分が取り囲む。回廊の外壁は棚となり、ところどころが窓になって隣地の緑が切り取られて見える。回廊の幅や床高は、ところによって変化し、ライブラリーやキッチン、たたみべやなど、様々な場が生まれる。開放的なステージを通して視線が繋がり、どこにいても家族の気配が感じられる。
 この家を形づくっている壁や床の構成は単純で明確であり、極めて整理された手法によっている。これに住み手の夫、妻、小さな娘が心を寄せる様々なものが加わって、おもちゃ箱を連想させる豊かで楽しげな生活の場がつくられている。ありふれた風景の中に出現したおもちゃ箱は魔法のようでもあるが、魔法使いの秘法によらなくとも、建築の力によってこれが可能になるのは、心強い事である。今後、様々な家族の物語が生まれてくる事が、楽しく想像される住宅である。
(菅原 洋一)

主要用途 住宅
構  造
木造
階  数 地上2階
敷地面積
176.36u
建築面積
136.13u
延床面積
142.38u
設計者 株式会社 ワーク・キューブ
 滝 彩子
 吉元 学
 桑原 雅明
 平野 恵津泰
施工者 有限会社 サンロテック
 篠田 宗佳

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