所在地 :三重県松坂市大黒田町199 |
形態的にも色彩的にも目立つ施設ではなく、むしろ周辺の景観から浮き上がらないよう押さえられているが、独自の存在感を醸し出している。平屋建てではあるけれども、地域のシンボルとなりうる施設である。 用途は民間企業の本社屋(オフィス)である。外観は直方体であり、シンプルで何の変哲もない。周りには樹木が植えられて、施設が林の中にある雰囲気を醸しており、木々が成長していくにつれて、森になっていくのであろう。 しかし、一旦社屋の内に入ると、視覚的にも環境的にも変化に富んでいる。一つの大空間に勾配天井が覆いかぶさる内観があり、そこに勾配屋根を持つ大小の閉じた部屋(社長室や資料室など)が配置され、ハウスinハウスならぬ、オフィスinオフィスという空間形態となっている。さらに周辺の町並みや敷地の庭園の風景を切り取る窓の形態は多様であり、エントランスの床から天井までの全面開口窓、執務室の袖壁のある長長方形窓、屋内の空間を外に向かって表現した妻入風窓がそれである。 これらを見て「ビオトープ」という言葉を思い出した。「生物が生息する場」という意味であり、そこには「場の多様性」が前提となる。川でいうなら、水の流れ、淀み、溜りが多様な生息環境を提供しているのである。 このオフィスでは、大・小かつ開放・閉鎖の執務空間があり、光の変化(一日の時の移ろい)や木々の色づき(季節の移ろい)といった、自然の移ろいを「身体」で感じながら、自分自身の「最適な居場所を動物的に選択する」ことを可能とする環境を提供している。もっと言うなら、家具やカーペットも多様な環境をつくりあげる要素と位置づけている。屋内だけでなく、屋外も居場所の一つである。 「環境」と「身体」の関係性を再構築することで、快適で、創造的な居場所をつくること、その総集編が、このオフィスである。 |
|||||||||||||||||||||
(井澤 知旦) | |||||||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||||||
|
|