所在地 :福井県越前市戸谷町87−1 |
世界的に事業を展開する精密音響機器メーカーの製品開発と生産技術管理の総合拠点施設である。施主自ら「田園の中の研究所」と表現するように、福井平野最深部の豊かで厳しい自然と「対峙」しながら「共生」への明快な主張をもつ秀逸の作品である。 空間構成は極めてシンプルであり、背景の山と既存工場に調和する規模と形態に収められた2層の四角い閉じた箱の中央には、自然と対峙する軸線方向に「ヴォイド(水盤をもつ中庭)」が填め込まれ、適度なスケールと距離感によって内部空間を分割しながら自由で開放的な相互関係を創り出すことに成功する一方、中庭カーテンウォールのガラス面や水盤への光の反射作用を巧みに利用して、閉じた箱の外側の自然風景を内部に取り込むことに成功している(山の緑や空の青さに加えて野鳥も来訪する)。ちなみに施主の主力商品はマイクロホンであるが、その解説には「音を捉える、過ぎ去っていく風景を逃さずありありとキャッチする。そのためにもっとも大切な音の入口」、さらに会議用マイクについては「マイク自体はできるかぎり目立たないかたちで伝送したい」とあり、施主の「マイクロホン=音の入口」に対する思いと設計者の「中庭=風景の入口」に対する思いが見事に一致して共有されている。 このような思いの共有の下で、ここで働く創造的ワーカーのクリエイティビティを喚起するための建築的仕掛けが、「建築空間そのもの(自然と対峙する建築の存在感)」のレベルから「構成技術(構造・設備の可視化)」「施工技術(材料・ディテールの自己主張)」「装備・サイン(新旧価値の重ね合わせ)」等のさまざまレベルで巧みに工夫され、しかも「出来上がりの姿」に先行して「現場・プロセスをみせる」という教育的取組として展開されていること、また一方では、積雪寒冷地での施工技術に関して技術者間の教育的取組も合わせて展開されていること等の姿勢も高く評価される。 |
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(桜井 康宏) | |||||||||||||||||||||
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