所在地 :長野県木曽郡 |
木曽谷の山間深くの人里離れた集落に立つ農家民家の改修である。築80年を超え、延床面積が278uという大きな民家に祖母と母親、高校生2名が一緒に住むための改修計画であるが、予算は1000万円と限られており、すべてを改修することは困難である。そこで、既存の躯体を耐震補強しながら、特殊な工法、材料は使わず、現存するものをむやみに触らず、また覆い隠さず、必要なものだけをつくるという方針で改修が実施された。 注目すべきは2階である。ここではかつて養蚕が行われており、燻されて黒くなった小屋組、大梁と柱、そして床板がそのまま残り、80年という月日を物語っている。しかし、隙間風がひどく、小屋裏の埃が舞うなど、冬の寒さが厳しいこの地の住環境としては何らかの対策が必要である。 そこで、既存の躯体や外壁を極力そのままにしておく方針に従い、既存の屋根や外壁で雨風をしのぐ一方、断熱材と合板で構成した屋根、壁、床からなるユニットを3つ、既存の床板上に置いている。そこが母と子どもたち、それぞれ個人の生活拠点である。ユニットの平面形や屋根形状は、現場で柱や梁の位置を確認しながら最終決定がなされた。 ユニット内では就寝、着替え、勉強などができる6畳程度のスペースが確保され、2ないしは3方向に通気や採光用の窓と掃き出し窓が付いている。内部の様子は簡単にはうかがい知れないが、内部から漏れる明かりがその様子を想像させる。また、ユニットの間や外壁付近には路地のような空間が生まれ、隅の小さなコーナーは子どもたちのもう一つの居場所として使われている。 大きな屋根の下のユニットが醸し出す家族の空間的表象と、古民家とパオのようなユニットとの異なる空間性が生みだす生活の場の魅力が、山深いこの地で静かに伝わってくる労作である。 |
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(小松 尚) | |||||||||||||||||||||
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