所在地 :愛知県蒲郡市 |
喜寿の「母」は語る。「こんないい家を建ててもらったんでは、後10年は生きんといかんわねぇ。」 この家は蒲郡の市街地からやや奥に入った、捨石川沿いの水田地帯の一角にある。ボリューム感のある建物ではないものの、まわりの色づいた稲穂とも調和しつつも、なぜか存在感のある不思議な平屋住宅である。 なぜそう感じるのか、その理由は屋根にある。通りから全体が見えるように屋根を片流れにして人々の視線を惹きつける。しかも軒先高を170cmと低く抑え込むことで、屋根をより身近に感じさせている。そんな屋根を瓦で葺いたのでは周辺から浮き上がってしまうが、全体に土と芝生を敷き詰めて緑化し、自生した草花も彩りとなり、四季の移ろいを感じさせながら、周辺環境に馴染ませている。大地と人と住宅がうまくつながれており、住まい手たる「母」の人柄をうまく表現している。 住宅平面はいたってシンプルであり、シンプルであるがゆえに使いやすい。寝室、リビング・ダイニング、キッチンの3つの部屋が東西に並び、それらが直線の廊下でつながれ、この廊下の北側に、トイレ・洗面や浴室といったユーティリティが配置されている。各部屋とそれを繋ぐ廊下のレベルは同じなので、バリアフリーになっている。 冬場は日光により土間が温められ、床下のコンクリート層に蓄熱され、同時にヒートポンプによる温水暖房もそこに蓄熱されて、身体に負担をかけない屋内環境を実現している。夏場は、クーラーは一切使わない。周辺が水田地帯なので、玄関やテラスのガラス戸・格子戸や高窓などを開放することで、さわやかな風の流れを屋内に取り込んでいる。さらに緑化屋根に散水することで気化熱によって暑さを抑えるなど、様々な仕掛けが施されている。 この住宅の真価はこれから問われる。「母」がいつも健康であり続け、長寿な暮らしがそこで繰り広げられること、そしてこの住宅自身が使いつながれて、長寿を全うすることを期待したい。 |
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(井澤 知旦) | |||||||||||||||||||||
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