所在地 :長野県北佐久郡 |
軽井沢の別荘地、カラマツ林の木漏れ日の中に建てられた設計者自身の夏の家である。別荘地とはいうものの、家々はけっこう建て込んでいる。裏手にはすぐ隣家が迫り、表側は二階のウッドデッキから見下ろされる。不用意に建てれば、郊外住宅地の暮らしと変わらなくなってしまう恐れさえある。それではせっかくの夏の逃避場が台無しだ。このようにして、建築のかたちの操作によって視野をコントロールする、というテーマが決まった。写真家は三脚に据えたカメラを精密に調整して画角を探るが、それと同じことを建築でやろうというのだ。 小さな切妻型の輪郭。屋根勾配はほぼ45度。外観はミニマルに抑えられ、ただ入口のドアだけが顔を出す。天井高は一番低いところで1mしかないが、そこから一気に4mまでせり上がる。奥に据えられた低いソファーに身を沈めると、空間の拡がりに沿って視線が自ずと上へ向くという仕掛けだ。 この断面構成に組み合わせられているのが、平面の分割・切削の構成。斜行した壁体が切妻型の断面を、寝室、中庭、バスルームに切り分ける。よく見るとそれぞれの壁の角度は微妙に異なっていて、寝室やバスルームの閉鎖感をつくり、同時に中庭の視野を確定させる。図面をよく見ると切妻型自体も敷地境界に対してわずかに斜めに配置され、視線の中心軸が制御されていることがわかる。 内部は白一色。浮遊感が満ちた空間に、カラマツの梢だけが絵のように際立ってくる。そうね、バスタブ。白い空間にどっぷり浸かって、ちょっと上向きに風景を眺めやる。そういう爽快感がたしかにある。 これらミニマルでありながら微妙な表現力を備えた技法を総合した結果、隣家の存在は見事にカットアウトされ、延々と続く森のなかに幕屋を張ったかのような、内省的で静寂な空間が生まれた。建築を構成する面の傾斜を様々に調整することによって、その空間的効果を最大限に発露させた、実験的・方法論的な作品である。 |
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(富岡 義人) | |||||||||||||||||||||
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