所在地 : 静岡県駿東郡長泉町東野字八分平347-29の内 他4筆 |
愛鷹山麓中腹の南東に広がる駿河平の自然と市街地の接点にこの施設は立地している。各種美術館や文学館等が配された「クレマチスの丘」と隣接し、文化の香り高いゾーンの一角を占める。 この施設は1975年にスルガ銀行創業の歴史を後世に伝えるために、江戸末期から明治にかけての銀行施設群を移転・復元した尚古館であった。しかし訪問者も少なく、老朽化も進んできたので創立115周年を記念して、グループ企業内のカレッジとして再構築したものである。保存改修、移築復元、新築、これら新旧施設を対比させつつも融合させる3つの手法で再構築されている。 一つは一石一木の中庭を中心において、真・行・草の考えのもと配置していること。真・行・草とは書道や茶華道の世界で表現される手法で、楷書(正格)・行書(中間)・草書(風雅)を意味する。 二つは同一機能で新旧の技術や素材を使いながらも違和感なく相乗効果を引き出すこと。 三つは一つの視線で一つの様式が視野に入るよう敷石、樹木、流水を配置していること。 シンプルだが重厚感のある門塀、それをくぐると駿東実業銀行館(研究所兼資料室)が目に入る。中に入るとコミュニケーションセンター(会議・研修)が中庭を囲み、ガラスの渡り廊下が配される。中庭の一石一木は、意味を持たせることで何かを感じさせる。この向かいには下田黒船塾という研修施設がある。少し起りのかかった金属屋根を4本の細い鉄柱(50Φ)で受けることで解放感と緊張感をうまく演出している。支店施設(移築復元)と講堂(新築)の一体化も違和感なく、施設の付加価値を高めている。特に講堂はすっぽりと森に囲まれた環境の中にあり、舞台(壇上)の背後の壁扉が開かれるとそこには桜の木が………。春の入社式にふさわしい演出が施されている。 ばらばらの寄せ集めになりがちな施設群を、独自の理念と手法で融合・調和させた手法は秀逸で、生み出された空間は品格がある。 |
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(井澤知旦) | |||||||||||||||||||||
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