所在地 : 岐阜県岐阜市 |
岐阜の街中の喧騒とはうってかわって、閑静な住宅地の一角、長良川河川敷のそばにこの家はある。玄関口から見ると、一見変哲もない2階建の白い住宅であるが、傾斜した敷地が半分を占め、それに沿って部屋を配置した、いわば風景に寄り添って建っている。 一般的には敷地の半分が北垂れの傾斜地であることは大きなハンディになるものだ。しかし、この住宅はそのハンディを逆手にとって建てられている。すなわち、第一に長良川そのものは直接見えないものの、北面にあるがゆえに順光となって、河川敷に広がる緑地や農地、あるいは長良川に迫る小高い山が鮮やかに浮かび上がること、第二に傾斜をうまく活用して、居住ゾーンを家族、子ども、眺望の3つにレベルを変えて分節化していること、第三に節(ゾーン)と節(ゾーン)の間に中庭をとることで、採光と眺望の両方を確保していること、がそれである。 この住宅には二つの特筆すべきことがある。 一つは一番下のレベルにある「眺望の間」である。この「間」は奥行が1間しかないが、幅は3間強あるため、全面開口できる窓(50cm高の袖壁)を開けることで風景を絵画のように切り取ることができる。よって向かい合って座るのでなく、風景にむかって並んで座ることに意味があり、奥行きの狭さはさほど気にさせない。「同じ風景、同じ時間を共有している」ことに価値を見出している。 もう一つは「階段の間」である。階段は分節化された3つのゾーンを結ぶ軸である。本来の階段は上下を移動する空間であって、とどまる場所ではないが、この「階段」は2.7m幅と1.8m幅の二種の幅広の階段を設け、「階段」そのものを居場所にしている。それゆえに「階段の間」と呼んでいる。二つの異なる節を結ぶ階段であるので、その居場所としての活用は多様性をもたらすであろう。 これだけの内容をわずか100uに満たない空間で実現している。そして大地、光、風…に、素直に馴染んだ住宅がここにある。 |
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(井澤知旦) | |||||||||||||||||||||
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