所在地 :三重県尾鷲市 |
紀勢本線、尾鷲駅にほど近い、いささか建て込んだ住宅地のなか、細い路地に面してこの家は建つ。単純な切妻、妻入りのプロファイル。家は地面からわずかに浮き、傾斜した敷地の下方から差し出されているかのようだ。 プランニングは非常に明快。鉄筋コンクリートの一階(敷地が傾斜して下がっているので地階にも見える)からスラブを伸ばし、木造の架構を載せる。主空間は二階にあり、棟に沿って二つ割りになって、片側がリビング・ダイニングの吹き抜けとなって上に広がり、もう片側は、階下の寝室と、吹き抜けに面した子供用のギャラリー空間の二層に分かたれる。 リビングの東側の壁面は、奥行きの深い棚がそのまま外壁になっている。時折、縦長の突き出し窓が開き、建物東側の高低差のある庭を見下ろす。それらをひとまとめにして、長いカーテンが部屋の側面を一気に引ききっていく。昼間ならば、明・暗・明のコントラストだけが映り込む手法だ。室内空間を単純化して見せるだけでなく、普段の暮らしの便利さと、来客時の場面の転換を両立させる、おもしろい仕掛けだと思った。 色使いも特徴的だ。リビングの天井は黒く塗りつぶされ、煙突のように屋根から突き出したトップライトから、いくつもの光が注ぐ。2階の奥に控えている風呂と洗面は、一転してブルーのガラスモザイクで、キラキラと埋め尽くされる。 1階のコンクリート造のボックスから、スラブ・キャンティを持ち出し、そこに木造の箱を載せる。これ自体、よく知られたいわゆるモダンリビングの技法である。この作品は、高低差のある狭隘な敷地にこれを適用し、よく子供がクレヨンで描くような、可愛い煙突のついた切妻の「おうち」に転換したものとも言えるだろう。僕にとって、このアイデアは、いわゆる近代建築家らしいスノッブな手腕と、キレイなものをキレイと言いきることができる子供のような純真さを、つなぐもののように思われたのである。 |
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(富岡義人) | |||||||||||||||||||||
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