万場山の家
所在地 :名古屋市
 名古屋市緑区という市の中心部から少し離れたこの家は、隣り合う敷地に姉夫婦の家と40年たった桜の巨木をはさんで、九州から移り住んできた妹さん夫婦の終の棲家でした。設計はご夫婦の姪御さんということで、この土地をよく知る彼女が6種類の庭を配し、それぞれの庭を生かしながら、ゆったり暮らせる家を設計されています。
 玄関からいきなりキッチンというプランも確かに廊下など必要でないなと思わず納得するしつらえです。訪れる人も皆玄関からでなく通り庭を通って南側の縁側からお入りになるとのこと。玄関は宅急便の受入れぐらいとのお話ににこやかにうなずくご夫婦は、この家をほんとに楽しみながら暮らしているのだと思いました。自然素材で包まれたこの家の居心地はとても良くのどかな風景を見ながら私達も思わず長居をしてしまいました。東南側の隣地が高く日当たりを期待できぬということで建物の屋根勾配を利用して高窓をとりリビング・キッチン・畳の間は優しい光で包まれている。畳の間と板の間の高低差を250mmとしてあり床に座ることを考えるとこの高さの方が上がり降りに無理がなく、このご夫婦には優しい高さになっている。28坪という面積の割にはゆったりしていると感じられるのは、上手に引き込み戸等建具を利用していて、広く感じられる工夫がされています。
 この家の素晴らしさは、風景を切り取る窓の位置です。リビングの和室の窓は程良い高さで切り取られ、長い通り庭を通るときは室内の雰囲気が感じられる高さで、夜なら明かりがもれ優しい光になる。坪庭を透かした寝室への廊下の窓はその時々の季節を感じられる坪庭が個室と公室を分ける空間となっている。寝室の高い窓は、桜の季節にはさぞ美しい桜の風景が見られる切り取り方で、満開の桜が、花の散る時まで堪能できるのだろう。
 前庭・通り庭・眺める庭・坪庭・憩う庭・畑と贅沢な庭たちに囲まれたこの家は、定年を迎えたご夫婦がゆったりと老後を暮すための一つの指標となるのだと思う。
(冨田 真知子)
主要用途 住宅
構  造
木造
階  数 地上1階
敷地面積
416.96u
建築面積
109.47u
延床面積
93.42u
設計者 F設計室  深谷 朋子
施工者 F設計室  深谷 朋子

一つ前へ戻る