所在地 :名古屋市 |
名古屋市でも東区のあたりには、戦災をまぬかれたのか、町家が建て込んだ地域が残る。この小さな小さな箱は、表通りから折れた路地の中程にある。小さな階段が入口の引戸に向かうだけの簡素な形。これ以上ないほど切り詰めた外観だ。 内部に踏み込んだ瞬間、空間がほとんど全部眼に入る。すべての空間と視線がつながりあう。スキップフロアを考えてみたことのある人ならすぐ分かるだろうが、スキップにしたからといって、空間の広がりが生まれるとは限らない。床からの立上りをちょっと高くし過ぎただけで、空間はすぐに分裂してしまう。そうなると音と臭気だけがつながりあって、不愉快さだけが増幅される。スキップを成功させるのは、実は平面の小ささなのかもしれない。 だから基本的に、スキップは狭隘な敷地のローコスト住宅と相性がいい。内部を「探検」してみると(本当にそういう感じなのだ)、家具的な精度の寸法調整によって、断面が注意深く設計されていることが分かる。こうして、空間で構成されたツリーハウスとでも呼びたくなる親密さが生まれる。家族のかけがえのないメンバーが、そこに鈴なりになっている、という印象なのだ。 内部はすべて構造用合板のあらわしで、角は単なる突きつけである。簡素だが、施工には細心の注意がいるはずだ。ベニアの箱にありがちなガランとした感じはまったくない。置家具をほとんど持たないこのご家族にとって、家自体が家具の役割を果たしているからだ。テーブル、机、椅子、棚、ベッド・・・すべて建築化されている。押入れもない。上階にはカーテンすらない。窓を奥まらせ、不要にしているのだ。地階(本当は1階なのだが)の水場の床はコンクリートのまま。夏の間はそこに座り込んで涼を取る。 屋根裏、軒裏、床下・・・、住宅建築のなかささやかな空間すべてを、家族の生活のために使い尽す。このアイデアを徹底して追求した、結晶体のような作品である。 |
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(富岡義人) | |||||||||||||||||||||
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