所在地 : 愛知県碧南市音羽町1−1 |
名鉄三河線の起点の碧南駅は、鄙びた海の香りが漂ってきそうな駅舎。愛用の三河味醂の産地であったと、親しみを感じた。5分ほど海側に歩くと、お寺や味醂関連の会社、民家など黒塗り板塀の景色が点在している一角にモダンなガラスと黒い外壁の美術館が見えてくる。実は1980年竣工の商工会議所を改修したものである。築28年程度で役割を終えるとは。日本の建築が余りにも寿命が短く、汎用性がないと日頃感じていたので、このコンバージョンは非常に興味深かった。以前は瓦の大屋根と白系のタイル張りで、当時のスタイルであるが、あまり周囲の状況を配慮したとは思えないが、躯体と瓦屋根、外壁を残した。特に大掛かりだったのは、地下の駐車場の利用。階高が低いので地中梁の形状を変え、道路側にサンクンガーデンを確保しながら市民向けの情報センター等に活用している。特徴的なガラスの壁は軒の出の深い大屋根の先端からサンクンガーデンを覆うように道路との境界に建てられ、宣伝用の垂れ幕の設置も兼ねている。スケール感の違いはあるが東北地方の小見世の雰囲気を醸し出していた。内部に入り、増築したガラスの箱状の喫茶室を見ながら2階の主展示室へ向かう。このガラスの箱は周囲の環境と比較すると大き過ぎる感があるが、内部からは周辺のお寺や町並みが借景となり新旧の対比が心地よく感じられる。勾配屋根の形状と無関係だったかつてのホールは、今回は勾配天井の主展示室になり、そこから繋がる、天井の低い展示室への導入も違和感なく行われている。この美術館は碧南出身の藤井達吉の紹介だけでなく、彼の意思に呼応する作家の選択がされ、すでに市内にいくつか設置されている日本を代表する彫刻家の作品とも連動している。今回、新築の建築と互角に選評対象になったことは今後の市場への刺激になると評価された。 | |||||||||||||||||||||
( 谷村 留都 ) | |||||||||||||||||||||
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