所在地 : 滋賀県守山市水保町北川2891 |
琵琶湖のほとりに、企業の社会事業の一環として建てられた美術館がある。水盤のなかにたたずむふたつの端正なシルエットが指し示す先に、この別館がひっそりと浮かんでいる。作陶家・樂吉左衞門氏の作品の展示館と茶室からなる複合建築である。 水辺のコロネードをしばらく歩き、美術館のエントランスホールから、水中に下るアプローチに導かれた人々は、一気に静けさのなかに沈められる。水中に広がったロビー、杉板型枠のコンクリートに投射される水中の光は、この建築の基調となる浮遊とゆらぎを提示する導入部である。そこから始まる展示室は、光の戯れというよりは、闇の戯れともいうべき世界である。暗闇の中に楽焼の地肌が浮かび上がり、その反射光が観る者の表情を照らし出す。 茶室の露地は、水中から水上へと再び浮かび上がる道行きとして造形されている。距離感、安定感、水音の反響のパースペクティブ、降り注ぐ光の滝・・・。こうした静かなドラマを通過したのち、ついに水上の茶席に出る。起伏するほどの荒い割肌の石縁のなかに正確にはめ込まれた畳の目の緻密。水面と高さをそろえることによって強調された、質感のぶつかり合いである。煤竹の天井、釣り下げられ、折り上げられる障子、ふたたび床の間にあらわれる割肌の石・・・。 設計創案は樂吉左衞門氏、設計・施工は竹中工務店による。伝統と刷新の狭間に身を置いてきた二者が、表現者─創案者─解釈者─実現者のように隙なく手を取り合った、ひと連なりの実現への道筋をつくりあげた。考えて見れば、これこそ伝統的な建築の芸と匠、その手練れたちの個性の連なりであったように思われる。きっとこの仕事でも、お互いの緊張力を確かめあうような、かなり先鋭な闘いが行われたことであろう。そしてそれが、各々の緻密な仕事を培う糧となったのであろう。 そうした緊張のときを経て、今、この作品はただ静かに、その姿を水面の紋に映している。 |
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(富岡 義人) | |||||||||||||||||||||
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