所在地 : 三重県伊勢市宇治浦田1-11-5 |
五十鈴川の畔、おかげ横町の入り口に当たる市営駐車場脇のガソリンスタンド跡地に、伝統的だが新しい商空間が誕生した。伊勢の伝統的素材と職人技術、民家様式を駆使して新たに創作されたプラザ形式の観光商業施設「五十鈴茶屋」である。これを敢えて創作と表現したのは、街道や参道型のリニア配置、路地形式が多い日本の伝統的商空間としては例の少ない中庭を、町屋様式=京風や江戸風ではなく民家様式=伊勢風の店舗で囲んだプラザ式配置を、再生や修復ではない新しい試みと評価したからだ。プラザは欧米に多く見られるフェスティバル・マーケットのタイプであり、博多のキャナルシティ(ジョン・ジャーディー)以来、国内各地に類似するスタイルが採用されている。ここは伊勢の伝統を欧米式のスタイルに織り交ぜた、まさに和魂洋才の商空間と言える。 この「五十鈴茶屋」の誕生によって、市営駐車場に降り立った客に、おかげ横町への玄関を意識させる構えが しつらえられた。五十鈴川に対しては、その眺望の場となる関係を生み出し、川沿いの新たな景観=伊勢風のウォーターフロントの風景を強調した。前面道路に対しては伊勢を意識するには不釣り合いだったと思われるガソリンスタンドから和の街並みを創出するなど、周囲に対して伊勢の風情の持つ価値を高める効果を派生させた。 このプロジェクトは設計者とおかげ横町を創った濱田氏との出会いに始まる。本物としては物足りないと言うおかげ横町への反省から、本物を追求して欲しいと依頼された設計者の2年間の計画と2ヶ月の集中的な実施設計は、規矩術を知り尽くした手練れにこそなせるもので、手描き見通し図に始まる密度の濃い書き込の入った手描き図面は優に百枚を超える。この図面と設計者の現場に即応した判断と指示、地場工務店の元に集まった伝統職人達によって「五十鈴茶屋」は成し遂げられた。伝統は新たに創造されてこそ伝統になると実感させられた。 |
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( 尾関 利勝 ) | |||||||||||||||||||||
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