山河の京都といわれる伊賀上野市は歴史のある城下町で街並みに趣があり、文化の香り高い地方都市である。ガス会社のショールームとして計画されたこの施設は会社の営業目的だけでなく地域の核となる機能も持ち合わせ市街地の空洞化を食い止める起爆剤にならんとする工夫がされている。具体的には料理教室、カフェ、ショールームを基本機能とし、付加機能としてギャラリーコーナー、セミナースペースを備えている。敷地は街の中心から少し外れた場所で、大型スーパー駐車場のアプローチと味噌醸造蔵に挟まれて、間口が狭く、奥行きが長い。複合施設としての多機能な要素を、単に部屋を用意するのではなく、自由に使い分けられるよう、フレキシブルで繋がり感のある空間で対応している。その方法として壁を作るのではなく、いくつかのサイズの異なる変形山形フレームを一方向に並べ、さらにそれらを重ね合わせながら連続した空間へと繋がる仕組みになっている。図面で見たときは特徴ある形態が、とがったイメージで、うるさいのではないかと必ずしも好印象を持ったわけではなかった。が、実際に現地で見ると、導入部のカフェが、町並のイメージに合ったちいさなスケールで始まり、奥に行くにつれ、大きさの異なるフレームの組み合わせと用途を絡ませながら山が折り重なるような構成になり、周囲のスケールの大きな施設とも調和を取っている。山形フレームは集成材で淡く塗装されており、接合と補強に使われた鉄のシャープな色と質感とのバランスがよく図面での印象を裏切る心地よさに驚いた。山形フレームの形態を継承した椅子が、様々な場面で使われていたり、駐車場側の桜並木を外構計画に取り込んだりと、隅々まで気配りのある施設であった。
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