建物は金沢の中心市街地の犀川沿い位置する幕末から明治にかけて造られた伝統的な町屋で、町並みは歓楽街となったために大きく変貌したものの両隣や道路向かいには、まだ町屋が残っており、当時の面影が感じられる数少ない場所になる。
平面は俗に「ウナギの寝床」と呼ばれるように、間口三間強に奥行き八間と細長く、改修前は右手を一間幅の通り土間にして表よりミセ、チャノマ、ダイドコロ(坪庭)・土蔵となり二階を和室三室としていたが、改修にあたって一階は表より車庫・陶芸工房、玄関ホール、ゲストルーム・多用途の土蔵といった趣味と応接の空間にして、二階は風呂や台所を備えた居住空間と明確に区分された。
外観正面は一二階とも軒の無い平面的で閉鎖的な全面可動式の竪格子に修景され、両隣や道路向かいの伝統家屋との景観調和を考慮するとやや浮いた嫌いはあるが、今のご時世、歓楽街の車や酔い客の騒音や悪戯及び防犯を考慮するとやむを得ないのだろうか?
室内においては施主の要望により伝統的な町屋の持つ良さが生かされ、土間の梁組みを見せた吹き抜け空間や土蔵が持つ独特の出入口周りの意匠と柱と貫が織り成す碁盤目状の室内空間が目を引く、また、意図的に新旧意匠の対比が各所で行われ、それらを強調させる採光の取り入れや照明設備にもこだわりが見られる。
構造的には耐震性を考慮して一階の間口中央筋に表から土蔵前までRCの壁を設たり、また、登り梁中二階形式の町屋が抱える天井高の低さを解決して二階の居住性を高めるために、屋根を上げるといった大胆な構造補強や屋根構造の変更が行われている。
歓楽街における町屋再生は多くの難題を抱えている。しかし、この事例が片町の町並み再生の先駆けとなり、今後周囲の町屋修景へと発展していくことを期待したい。
|