離山にむかう白樺林のなだらかなのぼり路を登山口まで行くと、急に開ける山裾に寄り添うようにこの住宅は建っている。かなり大きな敷地だが、そのほとんどは国立公園になっていて、南東の隅の残された平らな場所だけ建築可能という制約があるために、北側の斜面を順光の庭とする配置をとっている。テラゾータイルのポディウムと漆喰塗りの天井という二枚の版でその風景を切り取り、作者が「囲い」と呼ぶ黒く塗られた杉の竪羽目のブロックをランダムにその間に挿入することによって、別荘という非日常的な生活の舞台をたくみにつくりだしている。しかも天井高を2250mmと低く抑えているために、風景の切り取ろうとする作者の意図がより強く感じられる。
引き込み戸などの建具の納まりや軒先等に見られるディテールの繊細さ、素材の扱いに対するストイックなセンス、いろいろな部分のプロポーションなどに、作者の思い入れとデザインの成熟度を感じる作品である。また床下に蓄熱型の暖房機を設置し床暖房とするとともに、杉の竪羽目にスリットをあけ吹き出し口にするなど、技術的にもいろいろな工夫がなされこの建築を質の高いものにしている。一方で敷地の制約上やむをえなかったのであろうが、道路から建物までの余裕がなく、アプローチの設えに物足りなさを感じた。 近年別荘にまで日常的な住空間をそのまま持ち込もうとする傾向が多いなかで、この建築は、本来別荘建築がもつべき非日常的な空間の豊かさを教えてくれる秀作といえよう。
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