所在地 : 石川県石川郡野々市町字三納18−1 |
野々市町の市街地の端、山が見えはじめる所に現れるこの建築は、田園風景の中にあっても落ち着きを感じさせる。エントランスへのアプローチからみるファサードは、木質の柔らかさを見せる壁面、木のルーバー、ガラス面そして大屋根の隅部が一つの景色を構成し、これから内に展開する空間を予感させる。 本建築は、有識者を中心に基本構想が立てられ、それに従ってプロポーザルが行われ、案が選ばれたという経緯をたどっている。基本構想は、町民の意見が反映されているものであり、いくつかのコンセプトが明確に決められた。広場を持つ、低層でシンボルとなる塔がある、親しみやすいヨーロッパのような建物というものである。基本コンセプトが明快であることが建築を誇りあるものとする良い事例であるかもしれない。 建物は3層の行政棟、議会棟、情報交流館の3棟がコの字型に配置され、南に開け放たれた空間に、3層の高さにデッキが設けられ、全体をロの字型の大屋根で覆う構成となっている。かなりの広さを感じる中庭は、軽い適度な囲み感を持ち、広場的な利用や演出が期待できる。それらの、明快なプランとシンプルなファサードのデザインが小気味良さを醸し出している。県産材の能登ヒバを使った赤い耐候性塗料が塗られたルーバーが印象的であり、加賀の風土を反映させて、建物全体をまとめている。 南に隣接する近隣公園も敷地と一体的に整備できたことが、余裕ある立地を演出し、幸いしている。内部空間は、市民本位の利用を心がけることを意識して構成されている。ガラスに囲われたアトリウムも雪国であるが故の冬の明るさを求めた結果であろう。環境調節についても、前述のルーバーによる自然換気システムや自然光採光を設備にあまり頼らずに建築的工夫で行おうという意志をかなり意識してデザインされている。 南西にある塔を含めて北国モダンとでもいうような、ほのかにヨーロッパのどこかを感じさせつつ、野々市の風土性を表出させる新たな方向性を示す庁舎の建築である。 |
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( 堀 越 哲 美 ) | |||||||||||||||||||||
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