所在地 石川県金沢市東山一丁目13-24 |
重要伝統的建造物群保存地区「金沢市東山ひがし」は金沢市街地北部を流れる浅野川右岸に位置し、その中の茶屋「旧諸江屋」が「螢屋」として『改修』された。保存地区西側入口の三叉路南西角地に位置し、少し広くなった南側道路に柳を前景にして正面をそのまま見せている。非常に目立ち、「ひがし」の印象を決定づけるような立地条件である。 「伝建群内にある近世の建物を、料理を提供する空間とするために建築として何ができるか」が設計者の一番の課題であったようである。既存建物のどこを残すかが計画・空間構成の方法を大きく左右する。既存建物の調査によって、構造体のみを残しての空間創造から、構造的には脆弱だが14層にも重ね塗られた壁などの建物に残されたそれぞれの時代の痕跡を生かした空間の創り方へと変更された。 できあがった空間を見ると、構造的脆弱さを解決するために挿入された耐震壁は、紅漆喰が塗られ、違和感なく伝統的空間に同化している。また、玄関土間の吹き抜け2階に設けられたガラス床のブリッジは、伝統的な木造の限られた空間に新しい開放感と緊張感を与えている。また、部屋数を抑えることで「旧諸江屋」を明快な空間構成へと変貌させている。 このような改修工事では、工事の進捗に応じた施工段階で解決を図る場合が多く、それだけ施工者の能力も求められる。螢屋では、施主、設計者、施工者の3者がうまく機能して素晴らしい解決方法が実現している。また、来客の心を豊かにするような配慮や様々な仕掛けが心憎い。周囲の環境にも配慮した伝統的な建物の見事な『再生』であり、何度でも訪れたくなるような建物である。 (高嶋 猛)
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