所在地 滋賀県坂田郡米原町入江296 |
応募された図面を眺めている段階においては、実際の建築空間をなかなか思い描けないもどかしさを感じていました。平面的には、4つの保育室と遊戯室、交流室、そして管理部門とが、小さな運動場を取り囲むように配置されたものです。こうした平面パターンは極めて平凡で、特別な特徴があるわけではありません。ところが、この平面を覆う大小7つの木製ドームがユニークな外観と内部空間を作り出しているのです。 各々のドームが包み込む空間は独立した領域を形成しつつも、お互いが近接して連続することで幼稚園としての一体感を作り出すことに成功しているようです。4つの保育室は、担当する先生の個性を反映したアレンジメントにより、個性的な雰囲気を醸し出しています。特に魅力的なスペースは、園庭に沿って緩やかな円弧を描いている動線部分です。子どもたちの目線を意識して低めに渡された横架材、保育室の間仕切りの凹凸、平面的に2度の角度で振られた保育室の並び、さらにはドーム端部が地面に接する斜の面などなど、様々な建築要素が組み合わさって、人間味溢れる柔らかい空間が現われているのです。そんな雰囲気を意識しているのかいないのか知る術もありませんが、楽し気に行き交う子どもと先生たちの姿が印象的です。 ドームという形態を採用することで必然的に生じるディテール処理の困難さや、雨水・積雪処理の問題など気になる点もいくつかありますが、それらを気にさせない魅力のある幼稚園舎です。「子どもたちがなかなか幼稚園から帰りたがりません」と笑顔で応対する園長先生御自身が、この幼稚園の空間に最も惚れ込んでいる御様子でした。多数の見学者に慣れた様子の1人の子どもが近寄ってきて、「外から見ると大きないも虫みたいだよ」と自慢げに話してくれました。子どもたちにとって、この強烈な空間体験は他をもって代え難いものとなるはずです。 (鈴木賢一)
|
|||||||||||||||||||||
|
|