県産材の家・M邸

所在地 :福井県南条郡
 この小さな、つつましい建物から、私は、どんなに大きい、ぜいたくな建築もおよばない、大きく深い感銘を与えられた。自然に対する深い愛情、伝統的技術に対する強い信頼、そして生み出された豊かな空間。建物を造るとは、本来こういうことではなかったのか、そしてこれから、益々そのような姿勢が重要なのではないのか。このような建築にめぐりあえたことを感謝し、それを造り出した設計者と施工者に敬意と賞讃を送りたい。
 敷地面積においても、建物床面積においても、総工費においても、勿論単価においても、この建物は、応募全作品のうち、最低のものであろう。しかしこの建築を貫く意志は、明快で強く、一貫している。福井の山の木材で、住宅をつくること、そしてそれは、自然を回復し、育て、そして又、快適で心安まる住まいをつくることになる。そのために全力、全精神を注ぐということがその姿勢である。設計者と施工者は、力をあわせて先ず山に入り、杉を伐採し、山で充分葉枯らしした後、地場で製材し、加工し、そして地元の職人、大工の手で建て上げた。
 建物平面は、2間角の正方形をモデユールにして、それが横に三つ、縦に二つ計六つでつくられた単純な形である。内部空間は、この六つの正方形をぐるぐる自由に回るようになっていて、2階では、小屋組みが、そのまま表されている。日本の伝統的な民家のおおらかで、のびのびとした空間が、見事にここに再現されている。しかしそれは決して暗くよどんでおらず、明るく力強い。小屋組み、柱梁の継ぎ手の細工が全て露出されている。それはいかなる彫刻や装飾よりも美しい。二階床の一寸の厚板が、そのまま、一回天井に露出されているのも力強い。厚い板を使えば、断熱、遮音、仕上その他ほとんどが簡略化されることをいつの間にか私達が忘れてしまっていたことに改めて気づかされる。
 その他、部分的にけやきの古材や、建具の引手を再利用したり、笏谷石を復活させたりしている点も素晴らしい。
 大地の上に建物を建てるという基本、その中に人を住まわせるという空間の本質を、改めてこの小さな建物は、大きく強く私達に教えてくれるのである。  
(香山 壽夫)
構  造
木造
階  数 地上2階
延面積 
181.36u
設計者  宮田建築設計室
 宮田勝美  
施工者  前川建築
 前川幸夫
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