空蝉の家

静岡県浜松市
 交通量の多い道路に面した平家の住宅である。下部はRC造で上部は木造であるが、外観からは、木造部分もパラペットを立ち上げモルタルで仕上げているので木造であることはわからない。RC造の部分は、この規模ではあまり採用されない均等グリッド(一間半)上に立てられた角柱のラーメンフレームである。壁面は柱間を埋めるように、様々にな形で開閉するパネルが仕込まれている。屋根面には室内側をトンネルボールト状にくり抜いたLVLの井桁格子、その上に45度触れたトップライトを載せる母屋材が重ねられている。壁面では気分や気候に応じてパネルを選んで開閉し、屋根面では季節や時刻で刻々と変化する日の差し具合がつくる光の変化を楽しもうという仕掛けである。軽く区切られた一室空間の住宅に、微妙な趣を与えている。
 評者はかつて訪れたサラバイ邸(ル・コルビュジェ設計)を思い出したので設計者に問うたところ、それを意識したという返答であった。全体的には意欲的な作品であり、仕掛けられた意図に成功している。ただ、屋根の過剰気味な構造はもうすこし合理的に整理できそうであると感じた。 (大野 秀敏)
 2730㎜×2730㎜のRCグリッドが3×5列並ぶ構成はシンプルでありながら、音、光、空気・風といった環境要素だけでなく、居住者同士の振る舞いも含めた程よい距離の交感のようなものが丁寧に計画されている。均等配置された300㎜角の柱、梁下2000㎜の水平部材、2種類の高さのLVL格子アーチ、束、そして屋根とトップライトといった要素が積層された断面は、RCグリッドの横糸に対する縦糸のように構成されている。
 環境要素の主役は平面グリッドに対して45度ずらして配置された大小のトップライト、LVL格子アーチから差し込む光である。時々刻々移り変わり、その時ごとの光の場を作っている。交通量の多い幹線道路からの音への対応、建物とリニアに配置された庭空間への視線操作、屋根とLVL格子アーチの間を抜ける空気・風など、名脇役の様な環境要素が織り込まれた空間の場面を感じた。
 ル・コルビュジェは、インドでの実践において、アトリエで「気候のグリッド」を作成し、熱帯気候を読み解き建築を適合させるための方法を示した。このような手法は、環境の時代において再評価されてもよいだろう。本作品においても現代的な科学的根拠を与えることで、よりその造形が意味を持つのではないかと感じた。 (金子 尚志)
 この建物は2730㎜グリッドのRC造のラーメン構造の躯体の上に、内部からヴォールト形状に見えるようにLVLを455㎜グリッドに組み合わせた特殊な小屋組みが架けられ、さらにその上に小屋束を建てて、225㎜の通気層をとりながら、複数のトップライトを持つ屋根を支えるという、かなり特殊な構成の平屋住宅である。
 敷地は2面接道で、西側は交通量が多い国道であることから、開口部は屋根の通風窓のみとし、南側は庭を設けてスリット状の開口部を設けているが、防音対策として内窓を設けているため、住宅は周囲に対してかなり閉鎖的な構えとなっている。それに対し、内部は一つながりの開放的なワンルームとなっており、ヴォールト状のLVL格子の天井の奥行きと、それと45度振られたトップライトの配置により、光の取り込み方をコントロールすることで、屋根の下に様々な場を作り出すきっかけとしている。
 トップライトからの光が織りなす、現象的で内向的な空間表現を主題とすることが、地方の郊外住宅として相応しいか否かはさておき、自邸として実験的な試みに大胆かつ果敢に挑戦した建築家の姿勢を高く評価したい。 (横山 天心)
主要用途 一戸建ての住宅
構  造
鉄筋コンクリート造
構  造 地上1階
敷地面積
444.00㎡
建築面積
111.79㎡
延床面積
111.79㎡
設計者 KARMAN STUDIO
施工者 エヌテックサービス株式会社

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