八ヶ岳の山荘

所在地 :長野県南佐久郡
 生物としての人間に共通する欲望として、大きさや高さを競う建築(強さを感じさせるモノ)に対する憧れがあるのだろうと思うが、その一方で手のひらに乗るかのような小さなモノや建築にも惹かれるという一面も合わせ持っている。これらは恐らく矛盾するものではないのかもしれない。支配的な欲望と被保護的な欲求というものは、本能的に内在するのではないかと思う。人間にとってはどちらも欲望のかなたにあるものなのだろうと思う。
 小さな建築というものは、その機能や用途に関係なく、それ自体で一つのカテゴリーを形成し得るのかもしれないと思ってしまう。不特定多数が使う大規模な建築がそもそも小さなサイズに納まることはあり得ないので、その用途などはおのずと限定されることになるはずだが、動物の巣にでも似たような濃密な完成度の高さが人間の本能を刺激してくる。
 言うまでもないが、ただ小さいだけではその建築の魅力は形成されないことも明白だと思う。どのようなテクニックで「建築」としての魅力づくりの回答を得ようとするかが個々のデザインにおけるキーになってくるはずである。ここでは「角度」がキーワードになっているように感じられた。
 平面的にも断面的にも角度をつけた空間をつくりあげるのは、そうそう容易いことではない。フリーなイメージの時点ではなんでも可能であるが、現実化していくプロセスにおいて、コンピュータを駆使したとしても、寸法や納まりのチェックは試行錯誤だと思うし不安を感じながらの作業かもしれない。
 この空間で時を過ごす住人に小さいが故の窮屈感を感じさせないようにするためには、区切りのないワンルーム的なスペースが指向される。つくり込み過ぎない僅かなルーズさがゆとりとフィット感を実感させてくれる。居心地の良い可愛い建築の究極の極意はここにあるのではないかと思う。
 設計者の並々ならぬ設計密度にも敬服するが、施工者の技量があればこその建築であることも伝わってきて、小さな巨人的なエネルギーに圧倒された。
(関 邦則)
主要用途 一戸建ての住宅
構  造
木造
階  数 地上2階
敷地面積
1,666.19㎡
建築面積
70.24㎡
延床面積
92.08㎡
設計者 カスヤアーキテクツオフィス一級建築士事務所
施工者 株式会社 新津組

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