第49回 中部建築賞 入選・入賞 作品選評

審査総評
 中部建築賞の審査員長をお引き受けして2年目を迎えました。
 今回の応募作品数は昨年より、一般部門、住宅部門ともに増え、総数は118作品となりました。昨年より23作品増えたことになります。また、内容的にも多種多様で優れた作品が多く、審査会では活発な議論になりました。一日かけての書類審査で絞り込み、さらに手分けして、現地審査を行いました。現地審査の報告をもとに、様々な角度から再度検討した結果、一般部門で10作品、住宅部門で9作品、さらに特別賞として2作品を今年の中部建築賞受賞作としました。  私は昨年の総評文に、中部建築賞の評価基準のひとつとして、「中部地域の景観、風景、風土に相応しい建築であるかどうかを問う」と書きました。フィジカルな視覚環境を表現する「景観」と言う言葉と比較すると、「風景」は人間の意識や記憶にかかわり、文学的ニュアンスをもって語られます。さらに「風土」は古代から受け継がれたその地域固有のDNAだとも考えられます。「その建築が存在することで景観が整えられ、風景に愛着が沸き、風土に厚みが増してくる。」近代建築はこの視点を軽んじていたと思います。
 今回の審査でも、その建築が、周辺の景観、風景、風土に馴染むだけでなく、近隣周辺によい影響を与え、地域を活性化させるような作品が高い評価を得ました。こうしたことは現地に行き、実際に敷地周辺を歩き、さまざまな距離からその建築を眺め、周辺環境の中での居ずまいを確認し、さらには設計者のみならず、施工者、建築主、その建築の利用者、近隣の生活者に直接話を聴き、その地域の歴史や、その建築が建てられた経緯について知ることからも評価されたものです。建築の価値は、周辺環境の歴史的時間の審判によっても計られるものだからです。
 最近、「貸景」という造語を知りました。すぐ分かることですが、これは「借景」との対句です。座敷に座り、自分の庭を近景として見る。塀越しの近隣を中景、そして、はるか彼方の山々を遠景として望む。この場合は中景、遠景は借り物として愛でる。まさに「借景」は、「自力」ではない「他力」、さらには「庭屋一如」の思想の延長にあるものとして捉えられます。一方、立場を逆転して考えると、新しく建てられる建築は隣地、あるいははるか彼方からでも、姿を借りられる立場に立たざるを得ません。そして、自らの姿を貸す立場となった時、「貸景」の自覚が生まれます。
 今回の審査でも、建築内部からの「借景」だけでなく、外部からの「借景」となりうる自覚、つまりは「貸景」の視点でも応募作品を審査しました。「JRゲートタワー」「JPタワー名古屋」の2作品は名前が示すように、複雑な都市的機能を内包する巨大建築です。他の作品と同じ基盤で評価することには審査会でも異論があり、議論の結果、別格の特別賞を授与することになりました。この2作品は、特にその足元における都市的な公益性、公共性に見事に開かれた作品でした。さらに、はるか遠方から、新幹線の車窓からも「借景」として眺められる、地域を代表する建築です。そうした役割を担い、自らが優れた「貸景」とならねばならないことを充分に自覚した、都市建築であると評価されました。
(栗生 明)

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