所在地 :石川県金沢市
 周辺に江戸期以来の寺社が多く残る、金沢市街の重要伝統的建造物群保存地区内に建つ住宅である。このような重伝建地区において建築物を新築する場合、その外観に関して有識者により構成される審議会の了承を得る必要があり、ここでは「町屋的佇まい」とすることが強く要請されたという。それに対する設計者の応答は明快である。全体の輪郭を切妻平入の町屋形として、道路に面するファサードはすべてガラス張りとして街に対して視覚的に大きく開いている。内部には立体格子状の木造軸組を立ち上げ、その間隙に諸生活スペースが配される。このような間口が狭く奥行きの長い形状では、短手方向の耐力壁が奥行きを損ないがちであるが、ここでは短手方向をラーメン構造とすることで、伝統的な町屋の空間に通じる奥行きの深い流動的な空間性を実現している。
 下層部の道路側には、雪国で一般的な風除室の変奏である内土間が設けられ大きく道に開くとともに、その奥にある音楽室へと連続する。4.5mの天井高と道路から連続した土間という半屋外的なしつらえとあわせて、ミニコンサートや地域の寄合、道行く観光客のための休憩場所など、街と家とをつなぐ様々なシーンを想起させる魅力的な空間となっている。寝室や水周りなどのスペースは奥側に配され、リビングやダイニングなどの主要なスペースは土間空間の上層に高く浮かべられており、街に対して視覚的・物理的に開くことによるプライバシーへの対策も抜かりがない。
 住まいを街に対して開き、視覚的にも使われ方としても街と住まいが繋がること。一軒一軒の住まいがそのような構えをとることで、街の性格や表情は魅力的なものへと変化していくのであるが、それを実践することは口で言うほどに簡単ではない。色濃い歴史的文脈を引き受けながら、いかに街と接続しながらに現代的に住まうかという普遍的テーマに、ひとつの明快なモデルを提示したものとして高く評価したい。
(柳沢  究)
主要用途 専用住宅
構  造
木造一部鉄筋コンクリート造
階  数 地上2階、地下1階
敷地面積
81.83u
建築面積
60.21u
延床面積
149.18u
設計者  竹内申一建築設計事務所
施工者  加賀建設 株式会社

一つ前へ戻る