所在地 :愛知県犬山市
 「水平に広がる田園の中に建物がポツンと浮かぶようなイメージ」。設計者が意図したコンセプトは、現地を視察した私の率直な第一印象と合致した。
 犬山と名古屋を結ぶ旧街道、それと並行する主要地方道の信号交差点から少し入ったところに敷地の進入路がある。道沿いにはびっしり建物が建ち並び、そこから一歩中に入ると広々とした田園風景が広がっている。
 建築主によると、ここは調整区域であり敷地への進入道路が無い立地条件であるとの事。将来的にも歴史のある地域の魅力が継続でき、田園風景に溶け込む建物にしたいとの事。田植えの時期はキラキラ光る水面、夏には青々とした緑、そして刈入れ時は、黄金色に輝く稲穂の色、季節により様々に変わる大海の中に浮かぶ小島のような環境である。
 敷地周辺に塀や生垣を設けず周囲と一体化し、以前水田であった記憶を尊重している。また水平に広がる芝貼りの庭、四季の変化に富んだ常緑樹の植栽は、隣地からの視界にも配慮されたやさしさを感じられるランドスケープデザインである。
 建物は切妻平入形式で軒高を低く抑え、シンプルで奇を衒うことなく控えめな佇まいである。平屋であるが尚且つ北側への日影を考慮して、折れ屋根として勾配をゆるくし遠景の山並みに溶け込んでいる。
 外壁は、時と共に表情を変える縦羽目板張り。無塗装でやがて退色し屋根のシルバーグレー色にも馴染んでゆっくりと年月を重ねてゆくことであろう。  玄関に入るとそこはリビングと連結した土間室があり、夫婦の趣味である自転車のメンテナンスなど多目的室として活用している。南側は屋根の形に合わせた一体の勾配天井で連なり、常に家族の気配や光と風の感じられるパブリックな空間。
 東西を貫くコモンシェルフと名付けた廊下は壁一面を収納とし、整理された室内はシンプルで現代的なインテリアとなっている。
 近隣の方が散歩や通勤途中に足を止め、通りから奥まったこの住宅を眺めて声を掛けることが絶えないのがよく理解できる建物である。
(山田 貴明)
主要用途 専用住宅
構  造
木造
階  数 地上1階
敷地面積
498.50u
建築面積
100.15u
延床面積
100.15u
設計者  hm+architects
 一級建築士事務所
施工者  誠和建設 株式会社

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