所在地 :静岡県浜松市 |
敷地のある住宅地には、60〜70年代に建てられた南に庭をとる住宅と、ここ十数年で建った道路際に駐車スペースを設ける住宅、年代の異なる二種の配置形式が混在する。それに対する応答として二つのボリュームを斜交いに並べ、道路側・南側の双方にオープンスペースをつくる配置形態が導かれている。それほど大きくない住宅がより小さな二つのボリュームに分割されているのは、ひな壇造成地特有の建物の圧迫感を減じるためでもある。軒高もぎりぎりまで低く抑えられている。 このような「小ささ」への意識は内部にも貫かれ、1階天井高は鉄骨やデッキプレートを用いながら2.1mまで切り詰められ、その小ささが室内にいる人の距離感を濃縮する効果を生んでいる。対して2階は屋根裏を吹抜にした気積の大きな空間として1階とのバランスが図られる。間仕切り壁や階段が、露わにされたリジッドな構造体からややずらして配されることで、小さな空間の中に「抜け」のある緩さを作り出している点も心地よい。 再び外部を見れば、敷地の奥に張り出したデッキが、同じように設けられた隣家やその先の隣家のデッキと数十mにわたって連なり、一つの敷地にとどまらない住宅地としての広がりを感じさせる。住宅を設計することは本来、住宅が集まりつくられる住宅地を設計することでもある。当たり前のことではあるが、個々の敷地内での問題解決におわれ、そこへの配慮を行き届かせることは必ずしも容易ではない。 この住宅では、内部空間のきめの細やかな配慮さることながら、既存の街区秩序を尊重し受け容れた上でその魅力を引き出しながら丁寧に改変を加えていくという、設計者の町に対する眼差しとそれに基づくジェントルな設計姿勢を高く評価したい。それは別の言い方をすれば、一軒の住宅の建設により既存の住宅地を少しずつ改修していくような行為であり、その積み重ねこそが時間とともに魅力を増す町の形成に不可欠だからである。 |
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(柳沢 究) | ||||||||||||||||||
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