所在地 : 富山県射水市
 富山県の太閤山ニュータウンの一画に建つ、一人暮らしの高齢女性のための小さな住宅であるが、「竹林の見える家」という標題以上の意味ある提案を含む秀作である。
 少子高齢化に加えて人口減少社会へと突入し、なおかつ、自立的ライフスタイルが芽生えつつある現代、単身高齢者がどこでどのように住むかは、大きな社会問題であると同時に、一人ひとりの高齢者にとっては新たな挑戦課題でもある。一方、20世紀後半に開発された住宅団地では、空き地・空き家の活用やコミュニティの維持再生をいかに進めるかが大きな課題となりつつある。この「竹林の見える家」は、これらの課題に対する一つの方向性を提示している点が興味深い。
 広大な竹林を切り開いて開発された住宅地の空き地に建てられたこの住宅は、道路を挟んで竹林に面するのみでなく、住人がそれまで同居していた息子家族の住宅と背中合わせに存在し、相互に自由な行き来が可能となっている。それぞれ設計や陶芸を営む息子夫婦は、住宅をオフィス兼ギャラリーとしても開放して住宅地を活気づけている。打放しコンクリートとガラスから成る息子夫婦の住宅から独立した母親(定年退職まで教員)は、これまた幅広い友人の来訪を受け入れ、趣味の畑仕事も続けられる素朴でシンプルな木の空間を希望した。家族それぞれの自立性と対比性が見事に演出されている。
 内部空間は極めてシンプルで、L・D・座敷・寝室に性格づけられる8畳間4室が田の字型に構成され、その周囲を半間幅の緩衝帯(玄関、縁側、土間、収納等)が取り囲んでいる。息子である設計者は「入れ子」と表現するが、一人暮らしによる「不安感」を解消しつつ「開放性」を創り出す手法として興味深い。裏の畑にはD脇の土間が接し、土間横の階段を登ったロフト空間はLDを見下ろす趣味空間である。一方、表の竹林方向には玄関と縁側が開かれている。この対比性も見事である。
(桜井康宏)
主要用途 住宅
構  造
木造
階  数 地上2階
敷地面積
226.95u
建築面積
82.63u
延床面積
123.94u
設計者 水野行偉建築設計事務所
  水野 行偉
施工者 中川建築
  中川 誠

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