第41回 中部建築賞 入賞・入選・特別賞 作品選評

審査総評

 今年の応募者数は昨年並みの85点であった。まず2009年9月10日に応募ファイルによる書面審査によって現地審査作品20点が選定され、9月17日から10月14日まで審査員による現地審査が行われた。10月15日に第2回審査会が開かれ、一般部門入賞4点、入選6点、特別賞2点、住宅部門入賞2点、入選5点、また特別賞1点が決定した。
 今回受賞した住宅部門の作品の中で注目するものをあえて取り上げてみると、「万場山の家」は今日の少子高齢化社会に対応した住環境として注目すべき住宅の提案といえる。周辺の既存の家との関係性をうまくとりながら、共同のスペースを質の高い緑の空間、作者がいう自然を感じられる庭のある暮らしを実現する環境の形成に成功している。建築的ディテールも質実な和風をねらい、高いレベルであるといえる。
 もう一つの「KURURI−HOUSE」は庭と回遊性をもつ建築の構成の中で一体となったデザインが新鮮である。質の高い住居空間を作り出している。この入賞した作者は実はもう一つの入賞候補となった「はっぴぃさん」を設計している。この作品は規模は小さく、ローコストであるが、空間の構成は実に巧みで、子どもが成育する空間として、楽しさも親子のふれあいも感じさせる作品で高く評価できる。
 今回、注目すべきなのは「lots Fiction」という住宅である。子育て支援カフェと住宅を組み合わせたコンセプトがとてもユニークで、今後こういう形のホームビジネスもあるという話題性も有している。建築的にもその平面的単純さと断面的複雑さが交錯する構成も評価された。
 「南木曽の家」はその敷地のコンテキストの対応、静かで美しく使いやすそうな空間構成は共感できる。自然豊かな環境にはこのような自然や歴史に敬意をはらう住宅ができて欲しい。
 一般部門の入賞入選作品は、「いちい信用金庫新本店」は地域の金融機関としての存在感を示し、また地域の環境価値創造に寄与するという責任を果たす構成である。「名古屋インターシティ」は伏見地区のグレードアップを象徴するオフィスビルであり、そのデザイン、構造、工法、設備等、多様な提案がなされている。シックで上質という設計者が意図した環境として成功していると思われる。
 豊橋の「こども未来館」はそのオープンな構成に特長があり、また今回評価された点である。子どもの施設では同じ豊橋の児童養護施設「平安寮」はその平面構成は良く考えられている。特に2階中央の図書コーナーのある居間ラウンジ等がとても成功している。ローコストのため、周辺の緑地等が不十分である点と、城跡という歴史的な文脈が無視されている点が残念である。
 特別賞を受賞した「近江町いちば館」はその計画者の息の長い計画の実現に向けての努力がまず評価される。歴史的な遺産も活用するという方法は今後多くの再開発に影響を与えるであろう。
 入賞入選特別賞を惜しくも逃した作品の中にもすぐれて、その地域の環境に寄与するものは少なくなかった。応募者の皆様の努力に敬意を表したい。
(仙田 満)

一つ前へ戻る