所在地 : 静岡県浜松市二俣町二俣2396番地

天竜川が大きく蛇行して平野部に流れ出でている川べりの丘陵地に忽然と登場した、自動車等に用いられるフィルター製品を扱う企業の本社オフィスである。リゾート施設の跡地を得たことで、もともと景色に恵まれた立地条件に加え、建物と外構とが1つのランドスケープデザインとして一体化されて整備されたことにより、更に景観的な価値が高まったようである。
 1階エントランス、2階食堂、3階社内および社外の打ち合わせ、応接、研修、4階執務スペース、5階役員室など、それらが丘陵地を利用して配置されていると記すと、一見変哲もないビルにしか聞こえないかもしれない。4階の執務空間は東西に長く、南面および北面は各々下階の3階まで吹き抜けになっており、そこに社外および社内打ち合わせが南北にゾーニングされており、執務スペースの下は機械室、商談室、研修ホールが配されているため、開放的な基壇の上に浮いているようである。さらに5階の役員室は南北のペリメーター部分に回廊状に配されているため執務空間の天井高は7Mを超える。天井部はトップライトと繊維材に覆われた全面の光天井であり、圧迫感はまったくない。ペリメーター部は電動ブラインドを装着したダブルスキンに守られ、吹き抜けを介して和らげられた昼光がオフィス空間を満たしており、昼間は殆ど人工照明の必要がないほどである。
 つまりこのビルにおける最良の環境が、一般の職員が働く執務スペースであることがわかる。5階の役員室に至る通路と吹き抜けの間には、自社製品のフィルター素材を用いたスライド式のスクリーンがもうけられており、見え隠れする和の精神が垣間見える。
3階の打ち合わせ階から1階のエントランスにいたる大階段は一見バリアーに見えるが、天竜川の流れを眼下に見ながら坂を駆け下りているような快感が味わえる。そのほか敷地内には取引先の外国企業の要人などを接待する施設も現代数奇屋風にアレンジされており、来訪者はこのようなオフィス環境を保有している企業とお付き合いしていることに、なにか誇りと羨望とを感じることになるに違いない。なお当施設は本年度の日経ニューオフィス賞の経済産業大臣賞を受賞していることを付け加えたい。

( 谷元 元 )
主要用途 事務所
構  造
鉄筋造 一部鉄筋コンクリート造
階  数 地下 1階 地上 4階
敷地面積
28,066.000u
建築面積
1,710.907u
延床面積
4,440.732u
建築主 東洋炉機製造株式会社
設計者 株式会社久米設計
施工者 大成建設株式会社 名古屋支店

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