本施設は単なる製造工場から脱し、一般消費者に対して製造工程や製品自体をPRするだけでなく、開発精神と製品の活用方法を伝えることにより、健康的な生活を築き上げるための啓発と体験の場を提供しようとしている。「健康生活支援型ファクトリー」というのがその標語である。
東に中央アルプスの絶景を望む駒ヶ根山系の麓に位置し、施設周辺には深い森林が広がっており、散策路や薬草園が整備され一般に公開されている。
さて当該建物は、昭和初期に築造されていた酒蔵を、創業400年を記念して創業地から駒ヶ根工場地に移築されていた。その酒蔵を改装して生薬の効能を紹介する常設展示、毎週開催の講座スペース、コンサート等のイベント空間を提供している。伝統的な土蔵作りと、ハイテックな味付けがなされたインテリアとが絶妙なバランスで調和した空間が実現している。その改修された酒蔵と森に至る散策路の間に小規模なオープンカフェ、屋外デッキ、トイレが新築されている。重厚な土蔵作りと対峙するかたちでレベルの異なる2層のコンクリート造のプラットフォームと、鋭い切っ先の庇によって水平線が強調され、モダニズムあるいは侘び寂びに通じるデザインが体感できる。
これらの施設が整備されて以来、団体の見学客のみならず日常的にひとが訪れる場となり、年間の来場者が倍増したとのことである。設計依頼した企業の意図をくみ取り、優れたデザインがなされ、それが更に価値を生み出すという良き循環が成り立っている好例であろう。
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