所在地 静岡県静岡市池田28 |
いくつかのガスタンク脇を通り抜けると、「森の中の工場」の最も奥に突如としてステンレスの巨大な壁が現われます。常識的なアプローチを拒む佇まいによって、背後にいったいどんな空間的種明かしがあるのかという期待感が、一気に高まります。地面から浮遊する巨大な壁をくぐると、スリット状のスロープに導かれます。スロープを上がり切り直角に方向を変えた瞬間、今度は真っ白なトンネル状のスペースが現れます。床と壁、壁と天井の入り隅をアールで消し去ったその場所を通り抜け、再度直角に向きを変えると、吹抜け空間を包み込むガラスに覆われた巨大な「鳥かご」(立体格子状のフレーム架構)がドラマチックに出迎えてくれます。 このアプローチには、起承転結に仕掛けられた確信犯的なストーリー展開を感じないではいられません。辿り着いたロビー空間には、ガラススクリーンへの直射日光を遮るメッシュがモアレ模様を作り出し、一方で下部からは水面に反射した太陽光が柔らかく入り込んできます。 もともとエネルギーを供給する企業の研修施設として、その建物自身が循環型社会の先駆的モデルとなるよう太陽光、水、緑、風を組み合わせたハイブリッド型省エネシステムを具現化していることが大きな特徴です。また、厳しいコストと、短期間の施工条件をクリアーするために採用された2.4mのモジュール体系、同一既成部材の選択、統一された接合ディテールなどが一体となって空間全体に心地よい緊張感を与えているようです。何よりも、変化の激しい研修機能に対応すべく中央部に21mの無柱空間を設けるために南北辺の外壁側に二重の皮膜を構成し、動線空間と設備配管を集約する一方、外気からのバッファーゾーンとして機能させるなど、システムとしての整合性を高く評価したいと思います。 心地よい気積に包まれた研修空間は、これまで敷地内のどこにもなかった新鮮な体験を社員のみならず、関連企業の利用者あるいは地域の人たちへと印象付けているようです。企業イメージの核となりうる建築空間の出現は、利用者に対する教育的啓蒙と機能的満足感以上の効果を発揮しているようです。 ( 鈴 木 賢 一
)
|
|||||||||||||||||||||
|
|