所在地 石川県金沢市千日町三丁目22 |
ガラスの薄緑色とその金属フレーム光沢が主体の北入り建物である。周囲は比較的閑静な住宅街であるが、決して目立ってはいない。金沢の伝統的な街並みにあっているから不思議である。正面の、低く抑えられた横長なゲートは古い街並みの高さを連続させていると言う。そのゲートをくぐってガラスのエントランスを入ると、正面に四角い水面が波立っている。いきなり犀星を語っていると思うのだ。上方から光が射しこみ、水面にきらきらと空を映し込む。そこにはステンレスの樋と仏像の彫られた古びた水鉢があり、この新旧のアンバランスが妙にバランスしている。エントランスロビーより、このガラスに囲まれた中庭の左を通り展示ラウンジへと進む。ここは自然光を取り入れた明るい展示空間である。この空間の南側には小さな裏庭が配され、そこに段をなして水が流れ、犀川の風景を象徴している。さらに左に折れると、グレーの壁面の照明が押さえられた品のいい閉鎖的な展示室へと導かれる。犀星の生原稿など、貴重な展示物の空間である。 建物に用いられている材料は全体的に贅沢なものはではない。施工はとても丁寧であるが過剰なものではない。建物はこじんまりしていて住まい感覚、かつヒューマンスケールの記念館である。物質的贅沢と言えば、犀星が生前に集めていた石灯籠や石塔、水鉢などを庭に配したことであろう。ここは犀星の生誕の地であり、近くに犀川が流れ、そのほとりのお寺に幼年時代を過ごしている。犀星の原風景をこの建物に表現したかった、と設計者は語る。遠き都でふるさとを思い浮かべる犀星には、金沢の四季の移ろいや犀川での幼年時代の風景が重要であったに違いない。この建築のために委員会が構成され様々な人々が関わってきた。そのバックアップのもとに空間が具現化されている。金沢の中心地のにぎわいや、エリアの回遊性を高める役割も担っている。周辺関連施設との連携をはかり活性化に寄与するものである。この建物に、地元の人々や関係された方々の室生犀星への思い入れを強く感じる。味わいのある作品である。 ( 松 本 直 司
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