所在地 静岡県駿東郡長泉町下長窪1007 |
がん患者が医療施設に求めるものは、がん治療のための最高レベルの先進医療と、患者と家族に対する全人的支援です。しかし、この目標が如何に困難なことであるかは、最先端の装備が要求されればされるほど、過度に巨大で人工的な空間を提供してきた過去の病院を見れば良く分かります。医療サイドが求める清潔管理の徹底と部門間の効率的連結を優先すればするほど、本来の利用者である患者をいつの間にか遠ざけてきました。医療機能の高度化が、一方で患者を人間的に扱うことができなくなる矛盾をどう解消しうるかは、単に「患者のアメニティーを大事にする」という手法上の問題としてではなく、医療の質そのものに深く根ざしていることにようやく多くの人が気付き始めています。 静岡がんセンターは、その立地の良さを「ガーデンホスピタル」という設計コンセプトに取り込み、高度な機能空間と自然要素との接点を最大限に広げています。エントランス部分の吹抜けには外部に連続するロビー空間を持ち、外来部門にはガラスカーテンウォールに包まれた「陽だまりラウンジ」があります。PHSによる患者呼び出しシステムの導入により待合ロビーから開放された患者と家族が院内のお気に入りの場所で時間を過ごすことができます。建物周辺に整備された芝生広場を散策できることがいかに重要な時間であるかは想像に難くありません。 1看護3チーム体制を反映した病棟平面は、3つのウィングが3方向に伸びたT字型平面を構成したユニークな形態です。個室率50%、残りは2床室という病室構成によりプライバシーを十分確保しています。各ウィングの先端部に配置されたデイコーナーは場所によって景観が異なり、窓越しに見える富士山の雄姿、光り輝く駿河湾と伊豆半島の優美な姿が、どれほど患者と家族とスタッフを癒すかは計り知れないものがあります。「がん」という現代病を背負った患者さんがどんな環境で癒されるのか、言い換えれば建築のあり方ががん治療にどう関わることができるかは、証明性(Evidence Based) を標榜する医学の領域でさえほとんど何も分かっていません。ここでの経験的蓄積と患者中心(Pacient Centered)であるための知見を徐々に発信してほしいものです。 ( 鈴 木 賢 一
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