開運堂本店所在地 :長野県松本市中央2丁目2-21 |
これは、松本市の中心街に位置する和菓子の老舗を市街地再開発に伴って、新しく建て直したものである。 敷地は、松本駅前から、松本城に向かう、表通りに面した角地にある。観光客でにぎわう商店街の一画であるが、周囲には、土蔵造りの歴史的建造物も見られる。この建築が高く評価される点は、このような歴史的性格を保有しつつ、新たに開発されようとしている地域に対して、見事に対応し、優れた答を出しているところにある。 建物の配置について見るならば、建物の表通りに面する東側正面と、又その反対側の新たに区画整理事業によって駅から来る時の正面となる西南角を大きくセットバックさせその上に、大庇をかけている。その空間が、都市に開いた心地よい空間になっていると同時に、周囲の町並みにつながる水平の広がりをつくり出している。その造形は、現代的であり、同時に日本的な、切れ味のよい爽やかさを持っている。 素材の選定と細部の造形についても、技術的に練り上げられ、意匠的にも洗練された優れたものである。特に、外壁に用いられた櫛引左官仕上のEXコートは、寒冷地における耐久性の条件に応じつつ、伝統的な蔵造りの建物を、現代によみがえらせる卓抜な結果を生み出した。ここにおいても、伝統を現代につなげることに見事に成功している。 更に細かく見ると、先代、先々代の建物から引き継がれた正面の万成石の窓枠や、木製の看板を再利用するなど、建築の伝統を、引き継ごうとする積極的な意志が各所にみられる。こういう姿勢こそが、町並みを育て、都市を造り、伝統を生かしていくに違いない。地域社会に貢献する建築とは、まさにこういう建築のことだと評価したい。 |
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(香山 壽夫) | |||||||||||||
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