伊勢の週末住宅

所在地 :三重県伊勢市
 この週末住宅は雑木で覆われた標高180m程の小高い山の中腹にある。住宅主は、第2の人生を緑豊かな自然の中で趣味の大工仕事に興じたり、気のおけない仲間と一緒に集う時間の持てる場所を夢に見、数年前にこの地を訪れ土地を手にした。しかし、この敷地は山の尾根筋を南側に抱き、西垂れの沢筋のある湿気の多い斜面で、小規模な週末住宅といえども通常の方法で建物の建つ場所ではない。これに答えたのが「樹上に住むかのように生活の場を設ける」と言う設計者のアイデアと施工者の技術力である。すなわち、5.1mグリッドで打ち込んだ杭基礎の鋼管スクリューパイルをそのまま掘立柱とし、頂部を木製グリッド梁でつなぎ必要な箇所に床を貼るという方法である。実際ブレースのないスレンダーな鉄骨柱が急峻な斜面をあざ笑うかのように住宅全体を緑の中に軽々と持ち上げており、アクロバチックな印象とは裏腹にこの方法の必然性に気が付く。
 宙に浮いた住宅は、いわゆる軸組の木造である。道路側のファサードは外壁が卓越した表情を見せているのに対し、自然を内部空間に取り込もうと意図された南側は、無双窓が表面を覆い尽くす。無双窓の内側は実は半屋外空間としての縁側であり、完全な内部空間はさらにその内側にある。居間部分は、無双窓の開閉による内部空間の微妙な変化、建具全体を引き分けたときの劇的な開放性の獲得、中央部のトップライトによる光の変化との組み合わせで、光の入り方と空気の流れ、空間の連続性と独立性など設計者の饒舌な説明以上に多様な様相を呈する。無双窓の特徴を最大限生かし空間を演出する手法は、住宅における新しい使い方としてユニークである。
 森の中のピロティは、週末に日曜大工を楽しむご主人に思いがけず気持ちの良い場所を提供したようである。全体としてローコストを追求した施工方法は、住宅の主が時間に任せて手を加えることの出来る予感と余地を感じさせ、いずれ再訪してみたいものである。  
(鈴木 賢一)
構  造
鉄筋コンクリート造
階  数 地上2階
延面積 
136.13u
設計者  株式会社 ワーク・キューブ
 桑原雅明
 吉本学
 平野恵津泰
(設備・構造設計)
 ミューパートナーズ
 植田 亮  
施工者  株式会社 市川工務店
 代表取締役 市川治徳
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