火水庵

所在地 :愛知県豊川市
 この住宅は高速道路のインターチェンジ近傍にあり、周辺地域はロードサイドショップと郊外にスプロールする戸建て住宅が混在するエリアである。何の変哲もないこの場所に、施主と設計者と施工者の思いが込められたユニークな住宅「火水庵」が建てられた。そのネーミングから容易に想像できるように、家族が日常を快適に過ごすことのできる住宅というだけでは語ることのできないある重要な意味がこの住宅には込められている。すなわち、若くして志半ばに旅立たれた建築家であるご主人の現世での居場所を切望した夫人と子どもたちの思いを、かつて同じ職場で建築を語り合った同僚が、渾身の力で受け止めた作品なのである。
 南北に細長い中庭には、そこだけ切り取られた大屋根の間から明るい太陽の光が差し込む。この中庭には、ご主人の魂が戻ってくる時期になると浅く水が張られ、ろうそくが灯され、魂が宿る場所となる。大屋根がライトアップされると家族によって抱き込まれたような空間を作り出す。水の張られた中庭に張りだした縁側と一段高い舞台を飛び石がつなぎ、玄関アプローチとともに周囲を回遊できる。4畳半の和室に腰を下ろせば窓から望む水辺に浮かぶ屋形船となる。ややもすると大げさになりがちな仕掛けに関わらず、中庭を中心とする空間はどこまでもさわやかであり、住宅という日常的な空間のなかに非日常的演出がごく自然に実現している。
 敷地境界を囲うコンクリート壁によって強固に守られた内部空間は、母子がコミュニケーションをはかりながら助けあって生活できるよう固定的な壁や建具を極力なくしており、きわめて開放的なスペースをつくり出している。家族同志の視線の交錯、光のあたり方、風の入り方、星の見え方など、生活や季節の発見が楽しそうな住宅である。また、限られた予算の中で、仕上げ材をなくし構造材をそのまま見せたシンプルな素材感のあるデザインは、前向きな生活を展開しようとする家族の姿勢を後押ししているかのようでもある。  
(鈴木賢一)
構  造
鉄筋コンクリート造
一部木造
階  数 地上2階
延面積 
160.95u
設計者 株式会社C&C
古川栄男
(外構設計)
有限会社
ヒューマンホスピタリティ
古市俊郎  
施工者  株式会社 興和ホーム
一つ前へ戻る